
サイドボードの扉を開けたとき、扉の裏や引き出しの内側に、小さな金属プレートを見つけることがあります。アザミのモチーフがあれば、それはスコットランドの家具メーカー「A.H.McINTOSH(マッキントッシュ)」のもの。
G-PlanやERCOLと同じように、マッキントッシュのラベルも時代ごとに姿を変えてきました。今回は、ラベルの変遷と、その背景にあるメーカーの歩みをご紹介します。
1869年、スコットランドの港町で
A.H.McINTOSHは1869年、スコットランド東海岸の町カーコーディで創業しました。創業者のAlexander Henry Mcintoshは、父の代から続く椅子張り職人でした。
創業から10年後の1879年、彼は町はずれの広い土地を購入し、翌年に工場を建てます。鉄道の引き込み線があったため、丸太のまま木材を運び入れ、敷地内で時間をかけて自然乾燥させることができました。乾燥には長いもので25年を要したといいます。
マッキントッシュの引き出しは引っかからず、板は反らない。そう言われた理由はここにありました。

- 扉を開けたところ。内側にプレートが見えます。
その腕前は早くから海外でも知られていました。1878年のパリ万国博覧会ではサイドボードが佳作に選ばれ、翌1879年のシドニー万国博覧会では寝室家具などで賞を受けています。
住宅向けの家具だけでなく、ホテルや客船の内装も手がけました。1930年代には、豪華客船Queen Maryの家具や壁面の羽目板もつくっています。
アザミの丸いプレート(1950年代〜1960年代)
マッキントッシュを象徴するアザミのロゴが生まれたのは、1950年代のこと。アザミはスコットランドの国花です。デザインしたのは、のちに同社の人気シリーズを手がけるデザイナー、Val Rossiでした。

- シルバーの丸いプレート。中央にアザミ、周囲に「McINTOSH FURNITURE」の文字。
この時期のラベルは、シルバーの丸い金属製。中央にアザミの花、その周囲に「McINTOSH FURNITURE」の文字が入ります。文字のない、アザミだけのシンプルなタイプもあり、こちらは見かける機会の少ないものです。
1960年代初頭、マッキントッシュはそれまでのクラシックな様式の家具から、デンマークモダンに通じるミッドセンチュリースタイルへ舵を切りました。
主導したのは、デザイン責任者のTom RobertsonとVal Rossiでした。やがて寝室家具の製造をやめ、テーブルやチェア、サイドボードといったダイニング家具に力を注ぐようになります。Val Rossiによる「Aberdour」シリーズは、この時期に生まれたものです。
赤い「Mc」ロゴのプレート(1960年代〜1970年代)
1960年代に入ると、ロゴは赤い「Mc」の文字を使ったデザインに変わっていきます。横長のアルミ製プレートで、「A.H.McINTOSH & Co Ltd KIRKCALDY SCOTLAND」と社名と所在地が記されています。

- ヴィンテージ市場で最もよく見かけるのがこのタイプ。
現在流通しているマッキントッシュで、いちばん多く目にするのがこのラベルです。それもそのはずで、この時代はマッキントッシュがもっとも勢いのあった時期でした。
なかでもTom Robertsonが手がけたサイドボード「Dunvegan」は1961年頃に登場し、約20年にわたってつくり続けられました。モダンな家具としては異例の長さです。1960年代初めに340人ほどだった従業員は、1970年には500人に。その成長を支えた一台といわれています。

- マッキントッシュの代表作、Dunvegan。
1970年には、1880年から使ってきた工場が手狭になり、同じカーコーディ郊外の新工場へ移転しています。
アザミのシール(1970年代後半〜)
1970年代の後半になると、金属プレートに代わってシールが使われるようになります。シルバーの丸いフィルムに「FURNITURE BY McINTOSH」の文字。三角形を組み合わせたモダンな図柄ですが、よく見ると紫の花に緑の茎。かたちを変えながら、アザミは受け継がれていました。

- 三角形で構成されたアザミ。シールのため、剥がれている個体も多い。
鋲で留められていたプレートと違い、シールは長い年月のうちに剥がれてしまったものも少なくありません。
1970年代の話題作が「Cranston」ダイニングスイート。建築家Charles Rennie Mackintoshのデザインに着想を得たシリーズで、Tom RobertsonとAndrew Bennettのチームは「Showpiece of the Year」を受賞しています。
1980年代に入ると、不況と安価な輸入家具の流入で経営は厳しくなり、1984年に会社は「E.S.A. McIntosh」として再出発します。以降は学校や公共施設向けの家具の比重が高まりました。私たちがヴィンテージとして扱うマッキントッシュは、それ以前、アザミと「Mc」の時代につくられたものです。
ラベルがなくても、マッキントッシュは語る
プレートが外れていたり、シールが剥がれていたりする個体も珍しくありません。その場合は、素材とつくりが手がかりになります。
ミッドセンチュリー期のマッキントッシュは、チークを中心に、マホガニーやローズウッドなども使用。無垢材だけでなく、合板に薄いチークを貼った突板も多く用いられていますが、木目の取り方がていねいで、仕上がりの美しさは今も変わりません。
小さなプレートひとつにも、約150年にわたるものづくりの歴史が重なっています。マッキントッシュの家具に出会ったら、扉や引き出しの内側ものぞいてみてください。
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